第 3734 号2020.09.6
「バカな私」
森 麻里絵(宇都宮市)
ちょうど一年前くらいの出来事。夜中に目が覚め、携帯の画面を見る と「着信あり」の文字。顔にくっつくんじゃないかと思うほど画面を 近くに寄せた。自分の目の悪さに加え、この時の着信の相手に、ものす ごく驚いたからだった。その相手というのは、一時期すごくすごく好きだ った人。彼と最後に言葉を交わしてから3年くらいの時が過ぎていた。 大きな原因はないけれどなんとなく疎遠になってしまって、それからは まったく連絡も取らなかった。ましてや彼に「もう電話出ないから」と まで言われたことがあった。その言葉を聞いてから、「もう絶対に電話 しない」と自分自身に誓いを立てていた。 一体何のための電話?いまさら何……?そう思うと同時に、嬉しい気 持ちや切ない気持ちが綯い交ぜになっていた。思いあぐねた末、メール を送ってみることにした。 「急に電話なんて……どうしたの?」 返信が来るまで落ち着かなかった。約2時間後、携帯が鳴った。彼から の返信だった。 「お久しぶりです。ごめんね、間違ってかけてました」 え?間違い電話??私は、思わず独り言を漏らしていた。もう何年も連 絡を取っていない相手に間違い電話などあり得るのか??その日中、頭 の中は彼のことでいっぱいだった。結局、それ以上のやり取りはしなか ったけれど、せっかく忘れかけていたのなぁと思った。それから半年く らい経ったある日。 朝目覚めると、また彼からの着信が残っていた。また間違い電話?? いや、そんなわけないでしょ……1回目の電話も、2回目の電話の意味 もその真相は彼本人にしかわからないけれど、少なくとも私のことを覚 えていてくれたことが嬉しかった。なんて単純なバカなのだろう、私。 彼の隣に誰かがいることを想像すると、私から連絡するなんてことは できないけれど、また携帯が鳴るといいなぁ、「間違え電話」でもいい から。