第 3886号2023.08.06
「遠い記憶」安達健治(ペンネーム)
小学校6年だったか中学校1年だったか定かではないが、近くに 米軍の基地があった。陸軍の基地で極東地図局とも言っていた 基地だ。2メートルを越す高い土塀に囲まれた基地の中は見えない。 その急な土塀を友達とよじ登り初めて基地の中を見た。ショック だった。視界に広がる全てが芝生でヘリポートがあり遠くの森の 中に白い瀟洒な建物が見える、司令部だ。まさにアメリカが目の 前にあったのだ。後ろを振り向くと、僕たちが住んでいる小さな 家々が肩を寄せあうように建っているのが見える。なんていう違 いだろう。何かわからないけどとても憧れに近い感情を持ったの を記憶している。その基地が一年に一度解放される。 ゲートが開き日本人も自由に出入りできる一日だ。基地の中は お祭り騒ぎで料理を振る舞うテントがあちこちにでき、好きな 食べ物がもらえる、僕等にとっては天国のような空間に変わる。 目で見ただけの芝生を両足で踏みしめ、色々な料理の匂いを嗅ぎ ながら、陽気な音楽に耳を奪われる。まさにアメリカに居るのだ! MPは優しく、カッコいい。しきりに食べ物を勧めてくれるが、 英語を話す事も出来ずにモジモジしていると黒人のMPがケーキや ハンバーガーを紙皿に大盛にして持ってきてくれた。小さな声で 「サンキュー」と言って木陰に隠れるようにして友人と夢中で食べ たのを思い出す。恐らく両手で食らいつく感じだったと思う。 終戦後10年以上経っていても、まだどこかに戦争の匂いがしていた 頃の話だ。