第 3884号2023.07.23
「ラッシュガード」雨原(ペンネーム)
わたしは長いこと海が嫌いだった。 風はベタベタするし、波はギラギラするし、肌を露出して浮 かれた人たちも苦手だった。 なにより、容赦なく照りつける太陽が敵だった。 幼いころに連れて行かれた潮干狩りで日差しの強さにめまい がして転び、左膝を貝殻で切った時の傷はずっと残っている し、無邪気に海水浴を楽しんだばかりに背中をひどく日焼け して水ぶくれになり、痛くて眠れず泣いたこともあった。 もともと肌が弱いせいもあるのだろうが、海なんかに行った 日にはどんなに日焼け止めを塗っても全身真っ赤になって後 から泣きを見るのだった。そもそもそんなにムラなく塗りた くるのも面倒くさい。 そんなわけで、夏の行き先として海は長らく最も避けるべき 場所だった。あれに出会うまでは。 ある時なぜか思った。 海は嫌いだが、沖縄には行ってみたい。そしてせっかく沖縄 に行くからには海にも行ってみたい、と。 長年海はもちろんプールにすら行く機会がなかったため、ま ずは水着、と探してみたところ、かつては見たことのなかっ た「ラッシュガード」なる商品が多数売られていることを知 った。なんと、水着の上に着るだけで日差しをカットしてく れるらしい。上半身に着るものだけでなく、履けば足首まで カバーしてくれるものもあった。 それらを見た瞬間にわかった。長年わたしが必要としていた ものはこれだったのだ。 ラッシュガードを全身に纏って海に行ったときの感動は忘れ がたい。 背中が焼ける心配も、日焼け止めの塗り忘れを気にすること もなく、ただ波に身を任せるのがこんなにも心地よいとは。 それまでの反動もあったのだろう、わたしは瞬時に「海大好 き、海最高!」に宗旨変えした。 それからというもの、毎年梅雨が終わり夏の気配を感じるこ ろになると、海へ行きたくてソワソワする。 今年は2歳になる息子の海デビューも計画している。もちろん ラッシュガードを着せる予定だ。