第 3883号2023.07.16
「誕生日の贈り物」森田 修示
古くなった母屋の解体工事も終わり、納屋のリフォームに取り掛かっている。 昨秋から計画していた我が家の一連の改修工事にやっと終わりが見え始めた。 納屋の2階の一番奥から直径2m弱の水車が出てきた。正確には踏車(ふみぐるま) と言う。これは用水路や川から田んぼへ水をくみ上げるものである。 足で踏んで水車を回す。江戸時代に発明され広く全国で使われていたらしい。 この踏車を使って水を田んぼに汲み上げていた祖父や父の姿をおぼろげながら 覚えている。多分昭和30年代の前半まで使っていたのではないだろうか。 上の姉に「いつ頃から我が家にあったの?」と聞くと「じいちゃん達が担いでいって、 踏んでいたのを覚えているよ。それにその水車は2台目じゃなかったかな」と言う。 少し小さく羽根板も真っ黒になっていた水車の記憶が突然よみがえった。 それが1台目。2台目は使った年数が短いので破損や傷もなく完全な形で残っていた。 その後、農業の近代化が進みモーターを使用した潅水機械に代わっていった。 役割を終えた踏車は現在ほとんど残っていない。学校などに寄贈しても良いのだが しばらくは家の軒先に置いておこうかと思っている。 祖父や父が大事に保管していたものである。何かしら思うところがあったのだろう。 古い農具や農機具はほとんど処分した。すっかり片付いた我が家を見て 「あんたこれで楽になったね」と姉たちが言った。確かに農家の長男として背負って いたものが無くなり随分身軽になった気がする。 明日は誕生日。踏車は先祖からのプレゼント。入道雲が早い夏を連れてやって来た。 おまけに台風まで連れて来た。