第 3881号2023.07.02
「ピアノ」ゆりの花(ペンネーム)
最近、インターネットでピアノを購入した。小学3年生でピアノ教室を 辞めて以来、約15年がたった。 すっかり楽譜も読めなくなったが、数年前からストリートピアノを弾く ことへの憧れを抱くようになり、ついに「超初心者向け」の楽譜とともに 購入したのである。 早速ピアノを広げ、練習を開始する。ピアノを広げる、という表現には 若干違和感があるが、これは折り畳み式・持ち運び可能という便利なピアノだ。 15年振りとはいえ、しばらく練習すると、なんとか右手だけなら弾ける ようになってきた。やっぱり、弾けると嬉しい。母を部屋に連れてきて自慢する。 しかし、左手がないと演奏に深みが出ないのである。そこで、左手だけ での練習を開始する。 こんなことを言うと怒られそうだが、正直左手だけの練習というのは実に 地味に感じられる。地味だけど、これがあるからこそ深みが増すのである、 と自分に言い聞かせ、モチベーションを何とか 維持しながら練習する。なんとなく感覚を掴んだので、いよいよ両手で 弾いてみた。当然ながら両手で 異なる鍵盤を楽譜指定のタイミングで動かす必要があり、とても難しい。 一方の手に集中すると、他方の手は泳ぎ、鍵盤と鍵盤の間を押してしまう 現象もあるあるである。何度も止まったり戻ったりしながら、なんとか曲の 途中までを弾き終えた。肩に力が入り、ピアノを優雅に弾く姿にはほど遠い。 むしろピアノと格闘している。 肩の力を抜いて、大丈夫、これからこれから、と心の中で自分を励ましながら ピアノを折り畳み、その日の練習を終了した。 いつか道端にストリートピアノがあった時に、大切な曲を大切な人の前で 弾けたらいいなと夢見て。