第 3876号2023.05.28
「気持ちはわかります」
省子(ペンネーム)
雨の夜、短い横断歩道が赤にも関わらず、うつむきながら 渡ろうとした瞬間、「危ないですよ」と背中で大きな声がして 驚いて振り返ったら体格の良い警察官がニコニコと立っていた。 普段、大学で教えている学生くらいの若者に注意され、バツが 悪く「すみません」と小さく謝ると「気持ちはわかります!」と さらに大きな笑顔でいやしてくれた。 「アハハ、ありがとうございます」とたんに恥ずかしさが 感謝に変わった。 しばらく並んで歩きながら「繁華街は夜でもバイク事故が 多いので、気をつけてお帰りくださいね」と送られ、再度お礼を 言って別れた。 もしあの時、ただ頭ごなしに叱られたならば、自分が悪いのに 不快な思いしか残らなかっただろう。 すごいね、君。素敵な魔法の言葉を教えてくれて。 大学には未来の警察官志望者がいる。 そうだ、明日、授業でこのことを話そう。そして相手に寄り添った 伝え方を一緒に考えてみよう。コロナ禍で犯罪が増え、殺伐とした 今だからこそ大切なものがある。 いつの日か、爽やかに立ち去った彼のように、気持ちがわかる 社会人になって欲しい。