第 3687 号2019.09.22
「 フォーが食べられない 」
亀仙人(ペンネーム)
愛娘との二人旅。新しい時代、令和をベトナムのハノイで迎えた。正確には、そこで新しい時代を迎えたというより、平成から昭和へ、それも戦後の混乱期にタイムスリップして来たと言った方が的を得ている。排ガスと騒音に包まれ、雑然としたこの町には、たくましさと活気があった。
ベトナムへ来たからには、本場のフォーを食べねばと、ハノイで最も歴史があると言われているフォーの店へ。店先には、ドラム缶より大きい鍋が三つドンと据えられ、若手が手づかみでフォー、具材、スープをどんぶりにぶち込んでいる。店内はもちろん、歩道にもフォーを食べている人であふれている。
その決して清潔とは言えない店の様相を見て、私は力なくつぶやいた。
「ううっ、私は、ダメだ、食べれない。きみ、食べられるのなら、悪いけど一人で食べてきなよ。」娘も、若干の戸惑いを見せたものの落ち着いた声で、
「君には無理だろうな。私は大丈夫そう。じゃあ。」と、私を残し、一人、店の中へ入っていった。私は、彼女がフォーを無心に食べている姿を、店の外から複雑な思いで眺めていた。「平成生まれの小娘に食べることができて、なぜに百戦錬磨のこの私が、、、、」
後日、ここのフォーが原因であるかどうかは定かでないが、彼女は、おなかを壊した。おなかを壊したが、最後までその食欲は衰えなかった。
たくましさとは、失敗を恐れない粗削りな勇気を指すのではないか。
美しく洗練された響きを持つ令和。たくましく生きたい。