第 3301 号2012.04.29
「 幸せ 」
渡会 雅魚(ペンネーム)
息子夫婦を招いての孫の誕生日。
胸に紅、背中に白の餅の入った袋。私の住んでいる地域では、一升と一生を掛けて、一生丸く長生き出来るようにと、子供が一歳になったら『一升餅』と呼ばれる風習がある。
その折角のお祝いの席で息子と嫁が大喧嘩。ビデオカメラを忘れたのだという。
「『カメラは持ったの?』と聞いたら『持った』と言ったじゃない」と、嫁が怒る。
「ビデオカメラとは言わなかったじゃないか」と、息子は不機嫌になる。
おまけにデジタルカメラはバッテリー切れ。
「あーあ、あなた、大丈夫?疲れてるの?」と、嫁がしょげる息子の顔を覗き込む。
聞けば、震災後の混乱で会社は大忙し、息子の帰りは毎日夜中、加えて昨夜は腹痛でよく眠れなかったという。
険悪な雰囲気を変えてくれたのは孫だった。
私が結わえつけた餅袋に大泣きし、すっと立ち上がるや、嫁に突進。
「うわぁ、五歩も歩いた!」と、皆で大笑い。あっという間に和やかな食卓に。
幼児の頃、難病で三途の川を渡りかけた息子。良き伴侶に恵まれ、子宝まで授かったことは、我が家にとって望外の幸せ。 子供っていいものだ、生きているだけで親孝行、ましてや虐待などとブツブツ言っている還暦過ぎの爺と奇しくも同じ血液型、同じ蟹座の孫が運んでくれる光り輝く宝石のような時間。そこで一句。
『初孫の 顔を探して 雛を買う』