「 オレオレ 」
花子(ペンネーム)
私の家族は、5人。両親と姉、妹、私、だ。
私たち三姉妹はそれぞれに仕事を持ち、家を出たので、いま両親は二人暮らし。父はホームクリーニングの掃除屋として働き、母は専業主婦。
いままで携帯電話も持たなかった母が、スマートフォンを持って1年ほどたつ。最初は操作にも戸惑っていたが最近は慣れてきたようで、頻繁にメールが来るようになった。しかもかわいい絵文字付き。ペットの写真を張付して「かわいいでしょ(^^)」という時もあれば、
「今夜は玄米とかぼちゃ。身体の調子が良くなるよ」といったふう。
ある日の昼間、例のように母からのメールに気がついた。なんと、
「今日オレオレ詐欺の電話がきた!」とある。文章は続く。
「"オレだけど携帯を忘れた"と言うの。だれですかと聞いても、知らない声で"オレオレ"って言うだけで」。内容はさらに続く。母にしては長いメールだ。
「気持ち悪いから"うちには男の子はいません!"って言って電話を切ったわよ」とあった。
そうか、ついにうちにも来たのか。それにしても、子供は女ばかり3人の家に、下調べもせずにオレオレ電話を掛けるとは…。ごく一般的な私の家にかかってくるくらいだから、それだけ騙されてしまう人も多いんだろう、と思った。
母には、メールを返した。「だまされなくて良かったね。だけど"男の子はいません"なんて余計なこと言わずに切れば良かったのに」、と。
夕方になった。母からメールが来ていた。
「さっきのオレオレ詐欺の犯人は、父でした」
その後詳しく話を聞くと、父は母に伝言があったが、その日に限って携帯を忘れてしまったのだそうだ。それで、仕事先から公衆電話を使いわざわざ電話をしたという。
「まいったよ。何度も"オレ"っていっても分かってくれないし、携帯忘れたと言ったら"男の子はいない"って急に切られてさ」
家族で大笑いだった。
それにしても、40年以上連れ添った人の声でさえ、わからないものなのかなあ。