第 3256 号2011.06.19
「 欲しいものがない? 」
仲途帆波(ペンネーム)
入社3年目(東京オリンピックの3年前)に買ったラドー(スイス製)は、日本に初めて輸入されたカレンダー付き腕時計で、国内各社はまだ開発していなかった。時計業界の友人に頼んで安く手に入れたのだが価格の2万円は私の月給を大きく超えており、よくもそんな無鉄砲なことをしたものだ、と今は思う。
私も宝ものとなったこの時計は何しろよく目立ち、営業マンの私には商談がスムーズに運ぶといった思いがけない効能まであった。
それから40年あまり、私たち夫婦の誕生日には嫁いだ2人の娘からプレゼントが届く。毎回「パパのリクェストは何?」と聞かれるが、うーんと首をひねってばかりいる。
私にだって欲しいものはある。7年目となったマイカーも買い替えたいし、時計ならば前々からカルチェのファンだ。しかし娘たちにそんな話をしたら、いよいよ○○症の始まりかと思うだろう。妥当な値段で、というのが厄介なのだ。
私が「欲しいものがないということは、不幸なことだ」とつぶやくと、女房は「外でそんなこと言わないでヨ」と横目でにらんだ。
またまた誕生日が近づいたある日何気なく新聞を見ていると、クラッシックデザインの腕時計の通販広告が出ている。私好みだし70パーセントオフの1万円も魅力的、そうだ!これを娘たちからの共同プレゼントとして、ねだってやろうと決めてしまった。
今度はエンジンでUSA製、なんとこれもカレンダー付きで娘たちの親孝行に感謝しながら愛用している。