第 3159 号2009.08.09
「 夏の日の思い出 」
江口 愛(北海道札幌市)
今年も花火の季節がやって来た。
「花夢川花火大会」
去年までは、わざわざ花夢川まで行かなくても、ベランダから花火を満喫することができた。
しかし、今年の春、近所に十階建てのマンションが建ってしまったのだ。
かくして、我が家から見ることの出来た花火も、二度と見ることが出来なくなってしまったのである。
それでも私は、花火が見たかった。
あれを見ないと、なんというか、私の中に夏が来ないような気がするのだ。
近くのスーパーで買ってきた西瓜にかぶりつきながら見る花火は、最高だった。
でも、もう無理だ。ここから見ることの出来た、あの夢のような花火も、家族との他愛のない会話も、二度と見られないんだ・・・。
そう、思っていた。
花火大会当日、ふと、私の頭の中をある考えが駆けめぐった。
『家から見えないのなら、直接花夢川まで行けばいいじゃないか。』
こんな簡単な答えに、どうして今まで辿り着けなかったのか、不思議でたまらなかった。
その夜、私達は一家総出で花夢川まで向かった。夜風が心地良くて、それこそ、車の冷房なんか必要ないくらいだった。
そしていよいよ、待ちに待った花火大会が始まった。
レジャーシートを広げて、お盆に載った一玉ぶんの西瓜を家族で食べながら、花火を見た。
花火は家で見るよりもずっと大きくて、鮮やかで、美しかった。
西瓜も、なんだか去年より甘くなった気がした。
「家で見るより、ずっと綺麗だなぁ。」父が呟いた。
「本当ですね。・・・なんだか、いつもより西瓜も美味しいわ。ね、お兄ちゃん?」母の問いかけに、兄は口いっぱいに頬張ったまま、首を大きく縦に振った。
その姿に、家族全員が笑い転げた。
夜空には大きな夢花火が咲いていた。