第 3116 号2008.10.12
「 故郷は遠くにありて 」
長 坂 隆 雄(千葉県船橋市)
私の故郷は兵庫県の播州竜野である。
山陽新幹線姫路駅よりローカル線の姫新線に乗り換え約20分、本竜野駅で下車。
昔ながらの古い木造の駅舎を出て、駅前の道路を進むと、澄み切った空気の中に微かに醤油の香りが鼻をつく。
数分も歩くと大橋に差しかかる。下を流れているのは揖保川である。灘の宮水に匹敵すると言われる揖保川の清流が、薄口醤油で有名な『東丸』を生み、手延素麺『揖保の糸』を全国的に有名に育てて来た。
右前方には、原生林とも思える美しい、鳥篭を伏せたような鶏篭山が四季折々の目を楽しませてくれる。
橋を渡り旧城下町に入ると、途端に道端が狭くなる。戦略上の必要からか、城下町特有の小さな道が縦横に入り組んでいる。
多くの寺院、士族屋敷、芸者置屋、料理屋等の名残が点在しており、江戸時代から、明治、大正時代の歴史が凝縮されたような錯覚に陥る。
山手一帯には、竜野出身の多くの文人、詩人―三木露風、
矢野勘治、三木清等―の碑が並ぶ文学の小道が続いている。
時代は大きく流れた。併し、故郷の風土は軽薄な時代の変化を拒否するかのように、いつまでも、昔と変わらぬ、同じたたずまいを残して居る。
一度は訪ねたい町、一度訪ねた人は、再び訪れたい町。それが私の故郷竜野である。